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芙蓉の扶養

先日、至近距離を通過した台風11号は、マンションの最上階の我が家のベランダでも暴れました。
さいわい、萩を植えた大鉢が倒れてごろごろと転がったていどで、
プランターに植えたゴーヤーも、穂を出し始めたススキの大鉢も無事でした。

ルーフ・バルコニーがわりあい広いので、野山で掘ってきた植物などを鉢植えして楽しんでいます。ススキ、萩、箱根ウツギ、芙蓉、イロハカエデなど、ごくありきたりの草木ですが
そういうどこにでもあるようなものが、ときにハッとするような風情を見せてくれます。

芙蓉は博多からやってきました。
単身赴任していた時代に通勤の行きかえりに見かけて気に入っていた芙蓉の木がありました。
小川の石垣のあいだに根を張って、川面に覆いかぶさるように枝を伸ばしていた。
あの木は、僕が植物に話しかけた最初のものではなかったか。

その夏、初めて桃色の花を咲かせているのを見たときには、思わず足を止めてバッグから
スケッチブックを取り出した。鉛筆を走らせながら、「サラリーマンが通勤途中でスケッチして
いるというのは、そうとうヤバイぞ。戻れないところに一歩踏み出してしまったのではないか」
そんなことを意識しました。

帰任して一年足らず経った冬。博多に出張する機会があって、5年間暮らしたマンションを訪ねてみました。管理員のおじさんと1年ぶりの対面。1003の部屋にはやはり東京からの単身赴任者が入っているとのこと。当たりまえのことながら、馴染んだ部屋ですでに別の生活が始まっているというのは不思議な気がします。

宿泊先のビジネスホテルに歩いて戻る途中で、芙蓉の木に再会しました。
葉を落とした芙蓉の枝は寒そうだった。
「ごめん」と、いちおう断ってから枝を数本折り取りました。
ホテルの洗面所のシンクに水を張って浸し、翌日切り口に水を含ませたトイレットペーパーを巻いてランドリーバッグに入れて持ち帰りました。

バケツに水を張って活けておいた枝の切り口から根がのびた春、鉢に植えました。

花をつけるようになったのは、4年経った去年から。
今年は・・・・、夏休みで不在のあいだに水を涸らしたために、葉はすべて落ちて蕾も全滅。
枯れるかと気を揉みましたが、しばらくすると新しい葉が出ました。

「涼しくなる前に花ば咲かせたかよ。連れてきたからには、しっかり扶養してくれんといかんばい」
季節の移ろいとの競争の毎日、僕に文句をいいながらも、芙蓉の蕾はしだいに大きくなっています。
by yasuhikohayashi | 2005-08-28 13:14